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「どうも、済んまへんでした」
「はゝ、知つているな。よし、よし何もいやしない」
日々は平凡に単調に過ぎて行つた。
房一の態度が穏かだつたので、相手はいくらか落ちついた。
「いいや、子供は助かった代りに看病かんびょうしたお松が患わずらいついたです。もう死んで十年になるですが、……」
小谷が対岸から流れを指しながら叫んでいた。房一の竿の前を渡渉とせふするので承諾を求めたのだ。
「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」
「ハッパさね」
小谷は房一に話しかけた。
「せんせいですか」
坐りなり、あたりを見まはした。眉の強い、眼の切れ目な、短いつまみ立てたやうな鼻髭を生やした今泉の稍冷い顔つきは、それだけで云ふなら確かに整つた立派な顔だつた。苦味走にがみばしつて男らしかつた。たゞ何か大切なものが欠けていた。彼は身近かに、皆から稍やゝはなれて手持無沙汰にぽつねんと坐つている房一を見つけた。
房一が道平を送つて行くことになつた。
「いや、そのうち又ゆつくり話さう」